経験学習サイクル
2019/05/10
(シモムラタクジ, マインド・ドリブン・ソサイエティ α, affirmativeArchitect出版, 2018)
2018年12月1日、日本行動計量学会国際シンポジウムに参加して参りました。
目的は、ヒトの行動原理に関する情報の収集。
本当の自分を感じる
“重要なことはこれらの脳部位が身体の状態と外界の状態に関する情報にアクセスする部位であるということである。つまり外界の感覚情報を内部のホメオスタシスや内受容情報と統合することによって豊かな主観的な経験をつくることを示唆している。内側眼窩前頭皮質では感情価の高さに応じた場所で符号化され、扁桃体では活動の強さに応じて覚醒度を符号化している。”
(乾俊郎, 感情とはそもそも何なのか, P.27, ミネルヴァ書房, 2018)
行動計量学は初めて聞いた学問でした。これはどんな学問なのでしょうか?
日本行動計量学会のホームページを探したのですが、行動計量学の定義を見つけることができませんでした。もし、見つけられた方がいらっしゃいましたら教えてください。
それでも何かないかとホームページを探しましたら、次のそれらしき文章を見つけました。
「最も広い意味での人間の行動に関する計量的方法の開発と、その様々な分野への適用について(の)研究」
今回の発表者は因果分析のパイオニアであるDonald B. Rubin博士(Harvard大学名誉教授)、テスト理論に関する権威者Wim J. van der Linden博士(Twente大学 名誉教授)、因果分析などについて国際的に評価される業績の多い星野崇宏教授(慶應義塾大学)でした。
3名とも行動計量学における中核的な定理である「ベイズの定理」を使った研究を報告。
私は、専門的な観点からではなく、3名の研究がヒトの認知のどの部分に適用できるのか。
そんな観点から聴講しました。
ご講演を拝聴すると、実際に行動計量学を使って分析された結果は既に、良く見かけることを知りました。
例えば、マーケティングです。消費者の行動を予測して、商品の販売を伸ばす活動に応用されています。
googleやamazonのレコメンドが該当します。あなたがweb上で閲覧した商品の類似品が自動的に画面に現れます。そして新たに商品を購買したか否かのデータを蓄積して、購買行動が現れやすい類似品を提示するようにアルゴリズムを変更します。
もう一つあります。
Rubin博士の研究テーマ、二重盲検比較試験(Double Blind Randomized Controlled Trial)です。
これは私が夢中になった新薬開発で馴染みのある試験方法になります。この試験を計画するときに、新薬と薬効を持たないプラセボとの間にどれくらい有効性の差が期待できるのかを予測します。この期待した有効性の差を統計学的に信頼できるレベルで証明するためには、何人の患者の参加が必要なのかを算出します。そして、その結果、新薬とプラセボとの間には、統計学的に差があると言える有効性の差があったのかを分析します。また、グループの全体の患者を比較して、例えば、新薬の方が、平均年齢が若いとか、女性が多いとか差があった場合、この差が両グループの効果にどの程度影響があるのかを分析します。ここで、新薬の方が平均年齢が若いので、有効性が高いと結果が出たら、その試験をやり直す可能性があります。
両者とも求める結果を決めて、その結果を得るための計画の立案、実行して、その結果を検証しています。そして、この検証結果を次の計画に繋げます。PDCAサイクルを回す方法。これが行動計量学の実践になります。
この2つの事例は、個人の情報を沢山集めて実施しています。
それでは、一人一人の個人が求める結果を得るために計画、実行し、結果を検証するのに行動計量学を使っているのでしょうか?
ヒトは自分の経験を未来予測に使っています。
それは、自分が幸せを感じるためです。そのためにヒトは生きていると私は考えています。
“感情とホメオスタシスは、一貫して密接な連携を取り合う。感情は、心と意識的な視点を備えるいかなる生物においても、生命活動の状態、すなわちホメオスタシスに関する主観的な経験をなす。従って、感情とはホメオスタシスの心的な代理であると捉えれば良いだろう。”
(アントニオ・ダマシオ著, 高橋洋訳, 進化の意外な順序, P.38, 白楊社, 2019)
自分の経験を未来予測に使うとき、あなたはどうしていますか?
仕事の段取りは計画的な未来予測ですが、突発的な未来予測もありますね。
初対面の同級生、初対面のお客様。
これまで受けたことのない仕事。体験したことのないトラブル。
どちらも、未来予測に変わりはありません。
私は過去の同じような経験を思い出して、最も近い状況から上手くいった方法を思い出し、その時の行動と似た行動をとります。予測と現実の差を検知したら、その差を埋めて行くように行動を続けます。結果を得るか、結果を諦めるかのどちらかになるまで行動を続けます。
また、
過去同じような経験がない場合、上手く行きそうだと思えるやり方を決めて行動します。その後は上述の通り、予測と現実の差を検知して、修正しながら行動を続けます。
現実の時空間は、常に変化しているので、過去と同じ状況は2度と起きません。
あなたも、私も、その場の時空間を体験し続けているので、常に新しい自分になっています。目の前の景色だけではなく意識も常に変化しています。
同じ状況は2度と起きないのにヒトはそれに対応しています。
何故、それができているのでしょうか?
それは、パターンを認識する能力があるからです。
源流は幸せを感じられるパターンです。
このパターンが、あなたの興味、関心毎に枝分かれして、それぞれの分野で階層的にパターンを創っています。
私の場合、「幸せ領域」の下にfootball、新薬開発、コンサルティング、人工知能等のそれぞれの領域があり、その領域中に階層的なパターンを持っています。
この幸せを頂点とした、興味や関心毎に創られた領域が、その中に、そして、相互に階層的なパターンを持っている構造を「信念」とか「自我」と呼びます。
「信念」や「自我」は変わります。
この「信念」や「自我」をヒトが獲得し、変更管理を続ける仕組みが、標題の「経験学習サイクル」すなわち、
具体的体験→内省的観察→抽象的概念化→能動的実験→(具体的体験に戻る) (デイビット・コルブ)
能動的実験
具体的体験
内省的観察
抽象的概念化
このサイクルです。
私はここ数十年、「能動的実験」ドリブンな人生を送っています。「能動的実験」がそのまま「具体的体験」に自己再帰的に組み込まれています。
“端的にいえば、現象学とは、「私たちが世界に関わる中で生まれる現象や経験に焦点を当て、それらを記述し、私たちと私たちの世界の両方を理解して行こう」とする「経験の記述学」のことをいいます。”
(中原淳, 中村和彦, 組織開発の探求, P.86, ダイヤモンド社, 2018)
私の経験学習サイクルは、ベイズの定理によって、コンピュータプログラムになり得る感覚をもてたことが、今回の成果でした。
#ヒトの行動原理
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