選手の自主的なチーム運営
「ヒトは概念の中で概念を生み出しながら生きている。その概念には必ず構造がある。この概念とその構造は生命の進化が齎したgift。意識が概念を現わす。常に幸せと結びついて現れる。」
(シモムラタクジ, マインド・ドリブン・ソサイエティ α, affirmativeArchitect出版, 2018)
2019年6月30日、コーチをしている小学4年生のサッカーチームの試合でした。
3年生も3名加わった学年混成チーム、前後の試合が私は主審を担当するマッチメイクでした。
もう一人のコーチが怪我のため急遽参加できなくなり、前後の試合の時間は選手達だけで過ごすことになりました。
最初に選手達に試合に入る準備と試合が終わった後の次の試合に向けての準備を自分達で行うように伝えました。
その時のポイントは2点。
・サッカーに集中すること。
・誰かがサッカーに集中できなくなりそうだったらチーム全員で対応すること。
このポイントを伝える前に、サッカーに集中できていないみんなを見ると私が審判に集中できなくて困ることを伝えました。
“マーシャクによる、組織開発は価値観ベースの実践である、という主張は、組織開発であるものと、そうでないものを、手法によって区別できるものではない、ということを意味しています。例えば、チーム・ビルディングは組織開発であり、目標による管理は組織開発ではない、といった単純な議論はできない、ということです。実施する手法や取り組み、働きかけのベースに、組織開発で重視している価値観があるかどうかがポイントととなる、ということです。”
(中原淳, 中村和彦, 組織開発の探求, P.278, ダイヤモンド社, 2018)
今回のテーマは「選手の自主的なチーム運営」です。
私自身が選手の自主的なチーム運営が試合での能力発揮に役立つと考えていたことと、アクシデントにより今回はその必要に迫られたことにより実行しました。実際には親御様にサポートをして頂きました。
結論を先にお伝えをします。
・親御様のサポートはありましたが、選手は自主的にチームを運営しました。
・試合ではいつもは頑張れない選手が頑張れたり、いつもよりもボールに近づいてボールをプレイする回数の増えた選手が現れて選手達の成長を感じることができました。
今回の経験は私にとりましては悪くなかったと感じています。
選手や親御様の印象は次回確認をしたいと思っています。
私が高校、大学時代に体験してきたこと
このテーマは私が選手の時代の体験が起点となっています。
私の選手時代、実質的な指導者が居たのは高校1年生の時だけでした。
その後は自分達が練習メニューを考えて、キャプテンを中心として試合の出場選手を決めるチーム運営をしていました。
私は高校、大学とキャプテンを経験し、自主運営の難しさを感じながらチームメイトの協力を仰いでチームを運営しました。
・頼るヒトがいない中でどうやってチームの目的を達成するのか。
・試合に向けての練習や準備を毎回、自分達で行う。
この体験は私に当事者意識を植えつけてくれて、良いチームの評価基準「キャプテンが目立たない」を齎しました。
これはやがて、「その場のリーダーシップの質を問う」という私の態度へと繋がります。
“生命は最初の細胞の内部で、特異な親和性を持つ化学物質が、化学反応を無際限に繰り返し、動いたり脈動したりしてそれ自体を維持する、尋常ならざる集合を形成することで誕生した。あるいは、その最初の細胞そのものであったと言うべきかもしれない。”
(アントニオ・ダマシオ著, 高橋洋訳, 進化の意外な順序, P.47, 白楊社, 2019)
そして、私は良い指導者に出会いたかったという想いと、当時の自分の体験を次世代に継承したいという欲求を持ちながら社会人になり「今ーココ」に居ます。
社会人になり、合意形成の場面でこの体験が生きることになります。
私が社会人になってから体験したこと3>
薬学部の大学を卒業した私は製薬会社に入社して新薬開発を楽しみました。
この会社は全従業員の「経営参画」を標榜していました。
老舗のこの会社は新しい体制への移行に苦しんでいました。
これまでのやり方で利益は出ていました。
このままのやり方で行けるところまでは行けば良いと考えているヒトが大半を占めていました。
ただ、業界の流れとして世界統一の新しい基準で新薬開発を行うことが決まり、世界を巻き込んだ基準の作成が始まっていたので、その基準をクリアする体制に変更することを余儀なくされていました。
このタイミングで私はこの会社で初めて立ち上げた新薬開発の計画書の検討会議の事務局を任されました。
新薬開発の部門長がこの会議の責任者。私は部門長の部下として検討会議を運営。
「鉄は熱いうちに打て」
この部門長が新入部員の歓迎会で私に仰った言葉。
私は部門長の後方支援を受けながら、この検討会議を標準化して5年間一人で運営しました。
部門長から頂いた機会を私はフルに活用して、私なりの新薬開発の法則を持てるようになり、その後、この法則からこの会社の新薬開発をサポートする意図を持って仕事をするようになりました。
サッカー体験と新薬開発体験
この検討会議における合意形成に私のサッカーにおけるチームの自主運営の体験が役に立ちました。
サッカーのキャプテンとして実行していたことは、
・みんなの手本となる。
・誰よりも練習する。
・誰よりも試合で走る。
・誰よりも試合で声を出す。
・誰よりも論理的に説明できるようになる。
・自分と異なる主張を傾聴する。
・サッカーを極める。
自分が納得してチームメイトが納得できる環境を作ることに心がけていました。
サッカーにおける合意は私が納得してチームメイトが納得することです。
お互いに納得する過程では主に、事実に対する異なった見解の調整でした。
この調整の場面では、どんな気持ちだったのかを確認しました。
相手の気持ちを感じながら、チームの共通目的を達成するという体験により、私は「優しさ」と「勇気」のポイントを掴みました。
優しさ
勇気
“すでに述べたように、感情は島皮質によって感じることができ、扁桃体、前帯状皮質、眼窩前頭皮質などの活動によって支えられている。またこれらの活動は内臓の状態が反映されている。実際、食道や大腸などを直接刺激すると帯状皮質と島皮質での活動が高くなることが知られている。”
(乾俊郎, 感情とはそもそも何なのか, P.59, ミネルヴァ書房, 2018)
この体験は私にサッカーの法則を見つけたという感覚を齎したのです。
新薬開発の検討会議の事務局でも同じように役割を実行していました。
サッカーと異なるのは次の点でした。
・事実経過を当事者として共有できていないヒトとの合意が必要になる。
・必要な専門知識が多種多様である。
・目的(ゴール)を共有しにく状況もあった。
また、
会議では必ず言葉をやり取りして合意するので、
・何か言いたそうな出席者には発言を促す。
・曖昧な発言はその真意を確認する。
この2点を実行しました。
更に、
その場の「意識」を感じる範囲が、会議室→会社→日本→世界と拡大していく感覚を持ちました。
サッカーでは試合の事実をチームメイトと共有できますが、新薬開発はその背景を含めて世界各地で同時進行している関連事項を関係者間で全て共有することは不可能です。
新薬開発は一つ一つの新薬の開発目標、タイムスケジュール、開発体制が合意されたら、各専門家が自分の裁量で自律的に活動して、タイムスケジュールを守って目標を達成する活動です。
上司からの指示待ちではタイムスケジュールには間に合いません。
その場で関係者と協議して解決する。
そんな仕事の仕方に自然となって行きました。
この仕事のスタイルは「選手の自主的なチーム運営」のアナロジー。
“すでに述べたように、感情は島皮質によって感じることができ、扁桃体、前帯状皮質、眼窩前頭皮質などの活動によって支えられている。またこれらの活動は内臓の状態が反映されている。実際、食道や大腸などを直接刺激すると帯状皮質と島皮質での活動が高くなることが知られている。”
(乾俊郎, 感情とはそもそも何なのか, P.59, ミネルヴァ書房, 2018)
新薬開発体験は、私の「世界で通用する論理的な思考力」と「世界で起きている新薬開発に関する意識の嗅覚」を磨いてくれました。
そして、この体験も矢張り、新薬開発の法則を見つけたという感覚を私に齎しました。
この2つの私の体験をまとめますと、
・Football(サッカー)と新薬開発の両方でそれぞれの法則を見つけた。
・法則の対象はサッカーにおいては「目に見える範囲」であったが、新薬開発においては「目に見えない範囲」にまで拡大した。
・どちらの活動も自律分散的に行う。
“第三の要素として、どんな理論やモデルも、生体としての脳の構造を説明する必要がある。新皮質の構造は単純ではない。あとの章で説明するように、何段もの階層になっている。ニューラルネットワークもこの構造にのっとらないかぎり、けっして脳のように働かないだろう。”
(ジェフ・ホーキンス, サンドラ・ブレイクスリー著, 伊藤文英訳, 考える脳考えるコンピュータ,P.36, ランダムハウス講談社, 2005)
その後、会社員を卒業して、今、人財育成を目的とした合意形成のコンサルティングを行っています。
次世代の人財育成
人財育成には目的を持った活動が有効である。
これは、Football(サッカー)と新薬開発に留まらず、これまでの私の体験から導き出した法則です。
この法則は別の言い方をすると、目的を持った活動はそのヒト自らを育成する、と言えます。
私が今、トライしているのは、Footballという目的を持った活動を通じて、目的(自らを育成する手段)を持った人財を育成することです。
この活動の一環として「選手の自主的なチーム運営」を限定した機会を通じて実行しました。
今回の活動の成果は、継続的に選手や親御様とのコミュニケーションで確認して行きます。
小学3年生、4年生の時期に「自主的なチーム運営」を体験すると、その後に大きな違いを齎すと私は考えています。
今後も選手が「優しさ」と「勇気」のポイントを掴める環境作りに励みます。
私が見つけたこの法則は仕事として実施しているコンサルティングにも使っています。
実際、新規事業の立ち上げ、別部門からの異動者の育成にも役立っています。
新規事業の立ち上げ、別部門からの移動者の育成に悩まれていらっしゃる経営者からのご連絡をお待ちしております。
一人一人が「優しさ」と「勇気」のポイントを摘めば状況は必ず好転します。
#目的を持った人財を育成
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