理解することと同意することは違う
(シモムラタクジ, マインド・ドリブン・ソサイエティ α, affirmativeArchitect出版, 2018)
日本に限らず、多くの国や場には同調圧力があるようです。
また、同調圧力は時間と空間に制約がある場合、起こりやすいような気がします。
学校の授業で1学期でこれだけカリキュラムを実行しないといけないとか、今月は新しい車を1000台製造しないといけないとか。
時間と空間を使って結果を出す。この課題と実行能力との差分から生み出される感覚が同調圧力なのでしょう。
明確に合意されては居なくても暗にそうすることが求められている。もしかしたら、文化の一部なのかもしれません。
私が小さい頃から感じていたことです。
そんな同調圧力がそこに参加するヒトの幸せの障害になっている。一方、幸せを促進する文化になっていると感じることもありました。
同調圧力はどこから来るのでしょうか?
また、その同調圧力に変化を齎すのは何でしょうか?
私が製薬会社で体験した事例をご紹介します。
私がよく直面した場面は、理解はしているけれども同意できないという場面です。
製薬会社の仕事のやり方が世界基準になって行く過程で法律で求められる基準が高くなるので、それに対応するためには新しい知識や技術が必要になります。当時はコンピュータシステム化や信頼性保証(仕事のやり方を標準化して、それを記録に残す。その質や量を高める。)に関するモノでした。私は新しい知識や技術の獲得に熱心だったのですが、新しい知識や技術の獲得に熱心ではないヒトもいらっしゃいました。
環境の変化は理解できるのだけれども、その解決のために自分の負担が増すのは困るという方への対応に苦労しました。
このようにお考えの方が多いと、それが同調圧力に感じます。
もしかしたら、過労死には環境の変化にある特定の社員で対応するよう同調圧力がかかったモノもあるのかも知れません。
この時、私は環境の変化への理解を深めて頂くことを対話の中心に置きました。
法律には対応しないと仕事ができなくなること、お客様にも法律に対応をして頂かないと最終的にお客様にご迷惑がかかるかも知れないこと。コンピュータシステムを活用することで仕事の情報伝達が早まり、情報が蓄積されて活用可能になり、新しい価値を生み出しやすくなること。
会社の共通目的に沿った理解を深める対話が有効でした。
“組織の現状を理解するために、質問紙調査、インタビュー、観察などを用いてデータを集めます。”
(中原淳, 中村和彦, 組織開発の探求, P.215, ダイヤモンド社, 2018)
自分の慣れ親しんだやり方で仕事をやりたいと思っていらっしゃる方は多いと思います。
しかし、これからは、人工知能、IoT、ロボットがどんどんと仕事でも扱われるようになり、慣れ親しんだやり方が自働化されてしまうかも知れません。
リーダーには、メンバーが慣れ親しんだ仕事のやり方から、更に、生産性の高い仕事のやり方に主体的に変化して貰えるように導くことが求められているのではないでしょうか。終身雇用が難しくなって来ている状況が、リーダーに求める要件に変化を齎していると感じます。
そこで、今回のテーマは、新しいリーダー像です。リーダーは同調圧力に影響を及ぼす存在であると私は考えています。
自律分散型組織が新しい組織の形態として注目をされています。トップダウンの階層型ではなく、現場の判断、個人の自発性を上手く組織の成果に繋げる組織の一つの形態です。リーダーがメンバーの意欲を新しい知識や技術の獲得に繋げる職場を作れば、メンバーは自然と能力を高め、定型業務が自働化されても独自の能力で会社に貢献できる人財へと成長を続けます。
社員が仕事の能力を高め、生産性を高め続けるために効果的なのは、社員が幸せな会社にすることです。幸せな社員はそうでない社員よりも生産性の高いことは容易に想像できます。
幸せの障害になっているのは、自由に発言ができない雰囲気で、促進するのは自由に発言できる雰囲気だと私は考えています。
これからのリーダーは同調圧力なんてないと言えるヒト、そんな場にしてしまうヒトなのかも知れません。
ここで重要になるのは、発言者の言葉の選択と事実に対する認識です。
自分と同じ脳を持っているヒトは自分しか居ない。
そう理解して発言をしているか。
もしかしたら、自由に発言できない雰囲気の組織では、この事実を共有できていないのかも知れません。
もしくは、共有できていたとしてもリーダーの意見に対して異なる意見を発言しにくい同調圧力があるのかも知れません。
リーダーが自分とは異なる意見を積極的に出して欲しいと言えば、独自の視点の意見が出やすくなります。
自由に発言する雰囲気を創りだす技術はあります。
意図した行動を振り返る。これをやり続けた先になりたい自分が現れる。
仮に、課題解決のための会議をしていたとします。5人のヒトはそれぞれ専門が違い、仕事の現場も違います。
この会議で合意したことを5人全員で実行して課題を解決することだけが決まっています。
リーダーが他の4人とコミュニケーションを取っていました。この場合、リーダーが全体像を正確に把握していると理解をしても良いのでしょうか?
自分と同じ脳を持っているヒトは自分しか居ない。
課題に対して、自分と同じように捉えているヒトはあなただけかも知れません。
大まかな捉え方は同じでも詳細な部分では異なるのかも知れません。
それは、総論賛成、各論反対の場面で多くの方がご経験されていらっしゃると思います。
もし、そうだとすると、全体像を最も把握しているのはリーダーかも知れませんが、正確に理解しているかどうかは定かではありません。
それは、他の4人の専門家と同じレベルでは事実を把握していないからです。
あなたがその場のリーダーであった場合、どんなことに気をつけますか?
何かを決める場で私が考慮していることを列挙します。
・参加者が持っている情報をすべてその場に出す。
・自分のアイデアは唯一無二なモノとして提供する。自分の意見を発言することに躊躇しない。
・テーマの本質は一つであるが、その捉え方や表現はヒトによって異なる。
・テーマに関するゴールはその参加者全員のゴールを含めることを目指す。時間的な制約がある場合、同じ方向を向いていることが最低条件。
・ココからゴールまでの道筋は一つではない。3つの全く異なる道筋を検討して、その中の一つを選択する。どれか一つを選択したとしても、ゴールまでの進捗管理を徹底して、参加者が役割を全うできる体制を取る。
・環境が変化したり、開始時には入手できなかった新たな情報により、計画の変更を検討する。
これは、私が課題解決のフレームとパターンを分析してきた結果です。
私は新薬開発においてこのフレームとパターンを分析して来ました。新薬開発は基本的に未知な課題を解決する仕事です。この仕事を進めるにあたり、法律を遵守しなければなりません。また、社内外の専門家と合意により仕事を進めます。時間的な制約から従来のやり方ではないやり方を選択する場合もあります。複合的な判断基準、時間的な制約の中で実践を繰り返してきたエッセンスがこの6項目になります。
この6項目が私のコンサルティングの中心となっています。
この6項目だけではわかりにくいかも知れませんが、具体的な事例とその事例に関する対話を通じて、この6項目をクリアして課題解決に導いています。
それでは、課題解決の会議に話を戻しましょう。
会社の共通目的を常に念頭において、メンバーの幸せに繋がる課題解決方法を決める。
課題解決の過程には大きく分けて2つあります。
・課題の理解
・解決方法の同意
5人のメンバー一人一人の理解度、同意のレベルは異なると思います。
会議では課題への理解を深め、同意のレベルを上げるための対話が中心になります。
そして、全員で課題解決に向けて仕事ができるレベルで理解して同意することが課題解決のための会議の目標になります。
すべてを決めず、まず、何を実行するのかを決めることも有効です。
課題の全体像を把握できていないとか、メンバー間に理解に差がある場合です。
すべてを決めるための仕事をまず決める。
新しいメンバーで仕事を初めた直後の課題解決の場面で有効です。
あなたが課題解決に向けて仕事をするときに氣にして欲しいことがあります。
それは、それぞれのメンバーの理解度をあげて同意のレベルを上げることです。
ここは本人の自覚とあなたの判断が異なるかも知れないのでタイミングや言葉の使い方がポイントになります。
私が対話の軸としてオススメしたいのが「キャリアプラン」です。
どんな仕事をしたいのか、そのためにどんな知識や技術を身に付けたいのか。
メンバーのキャリアプランを確認し、そのキャリアプランを中心に日常の仕事で対話を行う。
そうすると、課題解決の会議でもお互いのキャリアプランを前提に解決策を検討できます。
もしかしたら、課題解決が誰かの成長の機会になります。
ここで同調圧力がどこから来るのかについて私の見解をお示しします。
チェスター・I・バーナードさんが「経営者の役割」で組織には「無関心領域」があると言われています。
上司の指示を部下が何も尋ねずに実行する関係性を表現しています。部下にとって上司の指示は「無関心領域」のレベルで受け入れてしまう。
これはある意味信頼関係と言えるかも知れません。信頼しているヒトの言っていることは正しい。まず、この感覚があるのでしょう。
次に、上司と部下との関係が1対多の場合、長い間一緒に仕事をしてきたベテランと昨日から仕事を始めた新人では上司の指示への理解度が異なります。
一般的には、理解度の浅い新人が同調圧力を感じます。
例えば、新人が上司から仕事を依頼されている場面で「仕事の内容は理解できました。一つ、気になることがあります。この手順で仕事を進めると商法違反が疑われませんか?」と質問をしたとします。上司の回答に新人がしぶしぶ同意をしました。あなたがベテランの立場なら、この場面をどう受け取りますか?
自分は上司を信頼して指示には疑問も持たず仕事をやって来た。新人は何が疑問なんだろう。上司の説明は理に適っている。一方、自分とは違う見方をするヒトがいることを知り、少々不安にも思えます。
一週間後、今度は「仕事の内容は理解できました。この手順ですと、3番目と7番目が重複しているので、両方の作業を5番目の次に『お客様にe-mail』でご連絡を差し上げたらどうでしょうか?」あなたは、同じ仕事をかつて2年間実施していました。自分も新人と同じように思うことがありましたが、特にお客様からクレームを受けなかったのでこのやり方を通していました。しかし、1度だけ20代のお客様から「この前、訪問された時にこのお話はされていませんでしたか?」と尋ねられたことを思い出しました。7番目の作業は3番目の念押しの意味があることをお伝えするとお客様は理解して頂けました。
その後、新人と2人でお客様を訪問する道中、数年前経験した20代のお客様とのやり取りを体験談として新人に伝えました。「やっぱり、お客様によっては同じことを2回尋ねられていると思われる方もいらっしゃるのですね。気をつけます。」と言っていました。
あなたは新人が3番目と7番目の作業をする意味は理解してくれたと感じましたが、その妥当性に同意してくれたかどうかは分かりませんでした。
新人が理解しているけれども、同意できていないとします。これが重なると、新人は同調圧力を感じるようになる。
私はこう考えています。
社員が同調圧力を感じながらも仕事を主体的に行うために会社が用意できる環境は何でしょうか?
私は社員の「キャリアプラン」の支援だと思います。そして、業務の標準化と標準化した業務の変更手順を組織で決めることだと思います。
仕事の自働化が進む中で、業務の標準化と標準化した業務の変更手順は、高めておきたいリーダーの能力の一つです。
ここまで提案した新しいリーダー像をまとめますね。
・自分と同じように考えているヒトはいないことを前提に対話ができる。
・メンバーの幸せとチームの共通目的を重ね合わせる。
・メンバーのキャリアプランの実現を支援する。
・自分なりの課題解決のポイントを持っている(私の事例を6つの項目としてお示ししました)。
・業務を標準化して、標準化した業務を変更する。
こんなリーダーであれば、その場にいる参加者全員が、その場の雰囲気を創り、その場で決まったコトに対して責任を追う。決まったコトに対して責任の一端を担う。こんな自律分散型組織が運営できそうに思うのですが如何でしょうか?
同調圧力
期待
同調圧力は裏返せば期待になります。
同調圧力はなんとなくみんながとか、そのヒトだけが感じているとかの場合が多いので、それを変えることはもしかしたら新しい組織への変革に繋がるかも知れません。
あなたが同調圧力と感じている何かは、実は存在していないのかも知れません。そして、本当の自分を表現できる空間がそこにはあるという意味で期待。
描いた未来はそこへの参加者の期待から実現します。
期待を高め、行動の圧を高め、前進して、常にフィードバックをかける。
リーダーに求められるのは、参加者が自発的に思考と行動ができる文化をチームに齎す能力です。
同調圧力を期待に相転移させる場創りです。
同調圧力を会議のテーマとして時々取り上げたり、同調圧力という言葉を使わないで、日常に潜むその兆候を捉えてお互いにその認識を共有して、それへの対処を検討し実行する。先にあげた6つの項目が、その場面として有効であると考えます。
俯瞰力は同調圧力を期待に相転移する能力の一つですね。
私は、課題を設定して課題を解決する能力を磨く能力開発のカリキュラムを持っています。
ここには同調圧力を期待に相転移するワークも含まれています。
あなたに新しいリーダー像を提供します。
ご興味のある方はこちらからお問い合わせ下さい。
#EvolutionalCoaching
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